終日想華 三蔵Ver.





何日かぶりで、街に着いたので 昨夜は ベッドで休むことが出来た。

2人部屋と3人部屋しか空いていないために、俺とが 相部屋になる。

は先日の一件で、俺を「三蔵法師様」ではなく、1人の男と自覚してくれてから、

堅苦しい態度が 一掃されて、柔らかい物腰で 接してくれている。

俺のものになることに「時間をください」と、言ったを待ってやると決めたからには、

焦らせるような事は したく無い、だから 無理やり触れたり 抱くことはしない。

寧ろそんなことをして、嫌われたり 去られたりして、

一生後悔したくは無いと 強く思う自分が、

男として かっこ悪くないとさえ思う。

やせ我慢は してるがな。

だから こうして 2人きりで 同じ部屋で過ごしていても、

は 他の奴らと居るより 安全だと思う。




隣のベッドで まだ寝ているは、起きている時よりも幼く見える。

その 寝顔には不安げなところは まったく無い。

寝ている間に俺がどうこうするかもしれないなんてことは、考えてもいないらしい。

それほどに 信頼を寄せてもらえるのなら、今は それでいいとさえ思う。

俺が こんなに 1人の女に、捕われて惚れるなんてことは、自分でもいまだに

説明が出来ないくらいで、信じられない。

それだけに が居なくなったらと思うと、恐ろしい。 

自我を保てるかさえ 自信が無い。

それは が俺の弱点になったと言うことでもある。




お師匠様のことで、守りたいものは俺の弱点にしかならないのだと知ってからは、

守らなくていいものしか欲しくなかった。

だからこそあの3人は、俺の側に置いておけるし、背中を預けることが出来る。

のことは、どんな犠牲を払ってでも 守りたいと思う。

その思いは俺を弱くするのだろうか、しかしを切り捨てて強くなりたいとは思わない。

弱くてもいいから、離したくないとさえ思う。

これでいいのかと自問してみるが、を離したら今よりもっと弱くなるような気がする。

それほどに惚れているということに、我ながら苦笑する。

身じろぎをして、おまえが 目を覚まそうとするのを見る。

その美しい 黒曜石の瞳に、今日最初に映るのは 俺だ。




「三蔵、おはよう。もう起きていたの?いつも早いのね。」

よかった、よく眠れたようだな。

柔らかい笑顔で 微笑むと、着替えるために 洗面所へ向かい、

身支度を整えると 戻ってきて、お茶を入れてくれる。

も会話が 多いほうではないので、2人で居ると 自然に 静かになる。

心地よい静寂はほんのつかの間で、隣の部屋で起き出した奴らにすぐに壊される。

俺は それが嫌だが、は 奴らのいさかいも 愛しげに見守る。

その顔には 微笑さえ 浮かんでいる。

どうしてそんなに優しくなれる? 不思議にさえ思うのだが、その表情は好きだ。

俺に向けられていないのが、癪にさわるが

そんなことを言って了見が狭いとは思われたくない。

ここは 奴らに ハリセンを食らわして、八つ当たりし 憂さを晴らす。




ジープで移動中は 悟空が、隣に座る を離さない。

天界での記憶が無い 悟空なのだが、のことだけは 少し思い出したらしい。

尻尾があれば ちぎれるほどに 振っているだろうと思われるほど、

うれしそうに 何事か話している。

まるで 仲のよい姉弟のように、2人は接している。

悟空が を慕う感情は、男女のそれではないと は 言い切っていた。

だが 俺は 面白くない、俺 以外に その美しいおまえの全てを 

独占させるなんて、俺が許せると思うか? 

イライラして 悟空を攻撃したところで、それを が かばうのは

もっと 面白くない。それが わかっているので 止めておく。

ただ 黙って不機嫌になるしかないのだが、

そういうところへ 紅孩児たちの刺客が現れたりすると、

いい意味で 仲良し姉弟も 引き離される。

今度の 憂さ晴らしは、関係のない奴等で 済ませる。




の仕事は、河仙に会って 異変後の状況を 聞いて回る事と、
水質汚染などの調査だ。

あまり 熱心にやっているようには 見えなかったが、

何かあった時のためにとガードに悟空を着けてある。

その 悟空に言わせると、その仕事ぶりは、

「いつものとは 違う人みたいだ。」と、いうものらしい。

俺に何も言ってこないところを見ると、今のところは異常はなさそうだ。

河仙は、女ばかりではなく男の河仙もいるらしいのだが、に対しては、

よこしまな想いは 持っていないらしい。

その牽制もあって悟空を着けてあるのだが・・・。

悟空曰く、「が行くとさ、みんな すげ〜大切そうにするんだぜ。

挨拶も 頭を低くしてさ。

、お姫様みたいになるんだぜ、

それにご飯もご馳走もお菓子もいっぱい出してくれるしさ。

そんな時 『せっかくだから、沢山食べなさいね。』って、すごく優しく言ってくれるんだ。

だから俺ご飯いっぱい食べるんだ。」だそうだ、猿はやっぱり猿だな。

が河仙を訪ねる時、何も言わなくてもわざわざ悟空を連れて行くのは、

そういう事もあってのことかと思う。

野宿や貧しい街の宿では、悟空の食欲は満たされないことが多い、

仕方がないことだと思っているのだが、

それを 少しでも 何とかしてやろうと しているのだろう。

愛しいものへの愛情を 隠すことなく、優しく表現する 

それが 俺に 与えられる日は、何時になるのだろうか・・・・。





今日は 運良く 街に着けた。

前の街では、思ったよりも買い物が出来なかったらしく、比較的大きなこの街で 

次の野宿の装備を 整えたいと 八戒が言うので、宿は2泊取ることにした。

八戒と悟空は、買出しに出かけたし、悟浄はふらりといつものように出かけてしまった。

宿に残って 留守番をしているのは、俺との2人だ。

好きな女と2人きり、相手もまんざらではない事は知っている。

だが手は出さない、出せない。

たぶん 抱きしめて、口付けを交わしたら自分を止められないだろう。

を 壊してしまうかもしれない、・・・・・・それほどにを欲しい気持ちが、

自分に湧いてくる日が こようとは・・・・。





を見ながら 思わず 苦笑してしまう。ふと、こちらを見ていると目が合う。

「私の顔に 何か付いているでしょうか? 

そんな風に 笑われると、きになるのですが・・・・。」

見惚れていたのに気付かないなんて、自分の容姿に自覚が無さ過ぎる。

俺が心配する前に、八戒が「外に出したくない」と言う気持ちもわからなくは無い。

そんなところが男の庇護欲をそそるのだという事を、まったく知らない。

前世の俺は、に何をいい、何を教えたのだろうか?

ここまで 天然に仕上げるには、何をどうしていたのか聞きたくなるってもんだ。

まあ、俺好みに 仕上げればいいんだがな・・・・・。




だけど は知らないだろう。

俺が 機嫌悪そうにしているその内で、

おまえのことを こんなに 一日中想っているなんてことを・・・。

悟空や 悟浄のささいなことにまで、嫉妬を感じているなんてことを・・・・。

誰にも おまえのことは 渡さないと、誓っているってことを・・・・。

そして、が俺を受け入れてくれる日を、一日千秋の思いで待っているなんざぁ、

口が裂けてもいわねぇがな。

「おい、。・・・・・・俺を呼べ。」

「えっ? いきなり どうしたの・・・・・三蔵?」

「何でもねぇ。」









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